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グローバルもいいけど、ちゃんと探せば日本もまだまだ面白いと思うよ

ラブライブ陰謀

      2015/07/13


男の名前は保科守という。

命令を忠実に、最適な方法でやり遂げる。 依頼主からの信頼は厚く、ダーティでありながらその評判は裏では非常に高い。

保科守は工作員である。 現在与えられた仕事は専らアニメ・ゲームに関する印象操作の裏工作だ。 彼にとっては別にアニメ・ゲームなどどうでもいい。どんなものだろうと不要であれば勝手に滅びる。革命のように激動のなか消されるものもあればひっそりと消えていくものもある。アニメやゲームだってそのようなものだろう。その程度の認識でいた。


彼には思想がない。 国に対しても社会に対しても未来に対しても興味がない。 こうあるべき、などという議論に意味などないと考えている。 実行されない理想など妄想と何が違うのだろうか。彼らの言う理想の社会とやらは議論で成立するのだろうか。

だから保科守は今の仕事が好きであった。 自ら計画し実行し事件を起こす。たったそれだけのことで世間が阿鼻叫喚する。それまで何も知らなかった人たちがテレビやネットで情報を得た瞬間どちらかの側に回る。そして思ったままに発言するから本質からズレていたり論理が崩壊したものまで様々飛び交う。さっきまでその名前すら知らなかったくせに知った顔で主張する。滑稽な風景である。 それは一種の啓蒙感だろう。 自分のたった一つの行動がニュースとしてあちこちを巡り、何も知らなかった人間に届く。さらに自身が騒動を起こし、それを俯瞰して観察することに保科守は優越感やもっと言えば全能感のようなものを覚えたに違いない。

コンプガチャ問題などは恍惚の類であった。 詳細な説明は省くが、あの騒動はただ企業が苦労しただけであった。 ただ消費者センターに報告するだけで世間があれだけ騒ぐ。これほど面白いことはない。 今回彼に与えられた任務は、現在アニメコンテンツとして最も勢いのあるラブライブ!の印象操作である。現在アニメ界の象徴的タイトルと言えるラブライブ!の評判を下げることで相対的にアニメ全体の評判を下げるのだ。 言わばステルスネガティブキャンペーンである。

「アニメか…」

任務だからやる。 それが保科守のルールではあるが、このような印象操作を行いたい依頼主の気持ちがわからない。 ここまでしてアニメやゲームを国民に敵視させたいのには何か裏があるのではないか。かつてヒトラーがユダヤ人を敵視することで国民を統一したような、そんな膨大な陰謀があるのではないかと勘ぐってしまう。

しかし与えられた任務は実行する。 今回は作品そのものの欠点を突くのではなく外側から攻撃する。 アニメコンテンツはヲタクが叩かれることで相対的に社会的地位を落とす。宮崎勤事件でも秋葉原通り魔事件でも知られたオーソドックスな手法だ。 都合の良いことにラブライブ!は最近劇場版が公開されたとのこと。これは絶好の機会だ。アニメは基本的に自宅で消費されるため一般社会に対して影響を与えるのが難しい。しかし映画となれば映画館という公共の場を使わざるを得ない。しかもラブライブ!のファン、通称ラブライバーと言えばただでさえ民度が低いことで有名である。

決まれば行動は早いほうがいい。 はした金でダーティな仕事に乗ってくれるならず者を用意。あとは映画館で犯罪にならない程度のモラルの問題を起こして立ち去るよう指示を与える。

計画は上手くはまった。 一人は客の親と喧嘩。一人は映画館で暴れだしチラシを散々に撒き散らかした後撤収。 この事件はすぐさまネットを駆け巡る。 「またラブライバーか。」「やっぱラブライバーって民度低いな。」最初はアニメに詳しい人達の中でボヤ程度の火が着く。ここまで来たら後は勝手に燃え上がるのを待つのみ。 やがてニュースは一般人の目まで届く。悪印象はさらなる悪印象を生む。そして悪者は問題を起こしたラブライバーからラブライバー全体へ、そしてラブライブ!そのものへとすり替わっていく。

かくして保科守の任務は果たされたのだ。

度重なるステルスネガキャンは着々と効果を見せ始めた。

「アニメを見る人のモラルは低い」 「アニメの社会進出は害悪」

業界のフラグシップであるラブライブ!の評価失墜はコンテンツ全体の地位を落下させた。 これを絶好の機と言わんばかりにアニメ規制論者が声を張り上げる。ドタバタに紛れて非実在少年の議論を持ち込み、世論もアニメ規制へと傾く。若者からの票を期待できない政治家は、アニメを知らずに規制を掲げる高齢層に擦り寄る。

嘆きうなだれるアニメファン。「 自分は真っ当に楽しんでいたのに一部の心ない人たちのせいで…。」 それが意図的な印象操作によるものだと知ることなく、彼らは存在しない「心ない人たち」を恨む。アニメファンによるアニメファンへの疑心暗鬼。アニメ嫌いから何も知らない人々、そしてアニメファン自身、全てがアニメによるコミュニティを信用していない。社会の全てが敵となっている。

圧力によって開催自粛されるアニメ系イベント。止まらないアニメ非難の波。 アニメは敗北した。もうアニメコンテンツに協賛する企業などない。 文化は完全に停滞した。これから思い出とともにひっそり消えていくのだろう。

8月15日。 多くのアニメファンが国際展示場前に集まった。昨年までコミックマーケットが開催されていた場所だ。 昨年まで最大の文化系祭典が行われていたこの場所には今や何の力もない。

「まるで文字通り聖地となってしまったな」

保科守はそんな冒涜的なことを考える。

国際展示場前に集まったファンたちは昔を懐かしみ、 現状を嘆き、そして未来のためにモラルの再確認を行い、僅かな未来への希望を語る。それは苗木が大木になるのを待つような気の遠いものだと彼らはうすうす感づいている。それでも楽園の再興を願わずにはいられない彼らにはそうするしかないのだ。あらゆるものから憎まれ、捨てられ、謀られた彼らはそれでも涙を流して在りし楽園に祈る。

きっとこの仕事はじきに終わる。 目の前に大挙する文化難民たちに何かを作り出す力はない。在りし美しき楽園の日々を思い出して過去に浸るのみ。彼らは何も作れず、何も壊さず、消え行く文化の最後の証人となるのだろう。 宗教にもなりきれない何かの団体として、何かに祈りながら、次の迫害に怯え、そんな風に最後の灯火を守り続けるのだろう。

アニメファンが去った国際展示場前。当然ゴミひとつない。あれほどの人が集まったことを考えれば相当なことだが、今アニメファンほど社会のモラルを気にする人もいない。 ネガキャンがこんな形で社会の役に立つとは皮肉なものである。

保科守は思う。損得を越えて拘る何かが自分にはあっただろうか、涙を流すほどに望む何かが自分にあっただろうか。きっとなかったのだろう。 だから自分は他者の何かを躊躇なく壊すことができるのだ。

そんなことを考えながら吸い終えたたばこを有明の海に捨てる。 少し離れたところで何度か見た顔が海に向かってゴミを投げ捨てていた。

(参考)

【ヤバイ】劇場版『ラブライブ!』を見終わったラブライバーがいきなり暴れだし、映画館がめちゃくちゃに(`;ω;´) 【暴報】 ラブライバー、映画館で子どもにキレて父親と殴り合いの喧嘩になる

ここまで民度に安定感があると逆に何かがあるのではと思っちゃうよね。

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